「パリ祭」は今年43回を迎えた。一度も欠かさず出演したのは石井好子ただ1人である。82才・現役。このシャンソン界のカリスマは、おそらく有終の美になるだろう舞台へ、腰を据え身構えている。 石井好子は長く、この催しのプロデューサーであり、この世界の指導者だった。歌手の第一者であり続けながら、開拓者としての責任を、常に広範囲に果たして来た。太平洋戦争が終わった45年の9月、ジャズ歌手としてデビュー以後、歌いづめの日々が60年である。波乱に満ちた年月だが、振り返れば夢の続き、旅の続き、さまざまな感慨と十二分の達成感があるだろう。 NHKホールの「パリ祭」を2日間歌い収めたあと、9月19,20日の2日間は、歌い慣れたメルパルク・ホールで歌手生活60年の記念リサイタルを開く。「さよならは云わない」というタイトルの持つ意味は深い。 石井好子は2つのホールの舞台で、ボーカリストとしての総仕上げをし、82年の人生を総括する。歌いながら生き、生きながら歌って来たすべてを決算する。04年、会場を東京国際フォーラムに移した都響との再演のあと、 「一瞬だけど、神を感じたわ」 と述懐した石井好子は、ファイナルステージの絶唱の中で再び、神を見るのだろうか? 9月のリサイタルのあと、石井好子は長めの休暇に入る。期間は半年と決めているが、その後のことは彼女自身にも予測がつかないと言う。歌手生活60年にして初めての長期休暇である。その中で石井好子は、再び猛然と歌う意志とエネルギーを得るのか、「現役」としての限界を見定めることになるのか。 「パリ祭」43年を追跡した僕の仕事は、長い「石井好子」体験の光栄に浴したことに尽きる。そのうえ彼女がどういう選択をするにしろ、この秋以降も僕の仕事は変わることがない。取材者としてこれに勝る喜びはないと思っている。 (音楽プロデューサー・評論家・元日本レコード大賞審査委員長) 「第43回パリ祭」プログラムより |